シン・エヴァンゲリオン感想(ネタバレなし)
シン・エヴァンゲリオン劇場版を初日の午前中に見てきました。
傑作でした。虚構の作品に感動したというだけではない。25年かけてこの結末にたどり着いた庵野秀明という作家の現実の歩みに感動しました。ありがとう。
Air/まごころを、君に(EOE)は、オタク達を無理矢理夢から醒まし、現実へと乱暴に送り返そうとしましたが、それは成功しませんでした。シン・エヴァンゲリオンは、中年オタクが自分に向き合い、大人として現実の人生を引き受けていく話でした。25年前の社会現象の落とし前が付けられました。
もちろん中年オタクだけのための作品ではありません。ただ、庵野秀明氏がこの間の仕事に、社会に、家族に、そして自分自身に向き合って出した回答でしょう。そして25年前のオタクのことも考え、彼らへの「憑き物落とし」としても作ってくれた。当時のオタク達の怨念もようやく成仏できることでしょう。
エヴァQから「エヴァの呪縛で歳を取らなくなる」という設定が出てきました。これはまさに、95年からエヴァに囚われ、ずっとセカイ系的な精神を引きずったまま中年になってしまったオタク達のこと。シンエヴァを見て、中年オタク達の反応を見て、改めて考えると、じつに深すぎるメタファです。
セカイ系を生み出した庵野氏が、自らセカイ系を終わらせたんだと思います。シン・エヴァでは、自意識に閉じこもる自分語りの限界が乗り越えられていました。それは庵野氏自身の35歳から60歳にかけての経験や成長が可能にしたことであるはずです。そのことに勇気付けられました。
庵野秀明氏は、35歳で発表した作品を、25年後の60歳に、同時代の価値観に合わせて更新することができました。「価値観のアップデート」が必要だと言われ、「変われない男たち」が問題視されている昨今、これほど中年男性を勇気づけてくれる作品はありません。
庵野氏は作品を作り変えたのではありません。自己を革新したのです。エヴァンゲリオンは私小説であり、庵野秀明自身が語られているのですから。
アベンジャーズ・エンドゲーム(MCU)も、中年男性がみっともない姿を晒しながら頑張る話でした。大きな感動をもたらしてくれましたが、あくまでも架空のキャラクターの話ではありました。
エヴァンゲリオンは、現実の中年男性が自身を曝け出した作品です。こんなにも私小説的でありながら、同時にエンターテイメント大作でもある。こんな作品は、この世界にほとんど存在しないでしょう。
エヴァンゲリオンが終わった。セカイ系も終わった。令和は大人として真面目に働こう。
[最終更新:2021年3月10日]