Googleアカウントの名前の表記について #デザイン批評

Googleアカウントの言語設定と、姓・名の表示順序は関係しています。

言語設定を日本語にして、「姓:石橋」「名:秀仁」とすれば、もちろん「石橋秀仁」と表示されます。これは当然です。

その上で、興味深いことを発見しました。

日本語設定のまま、アカウント名を「姓:Ishibashi」「名:Hideto」にすると、各サービスで表示される名前がHideto Ishibashiとなります。姓名の順序が逆になっています。しかし、私はそのような指示をしていません。単に「石橋」を「Ishibashi」に、「秀仁」を「Hideto」に変えただけです。

Googleアカウントの名前設定フォームのスクリーンキャプチャ
Googleアカウントの姓を「Ishibashi」、名を「Hideto」に設定している。
アカウント名が「Hideto Ishibashi」と表記されている。

これはどういうことか。姓と名から完全な名前(フルネーム)を作るアルゴリズムは、言語設定だけで決まっていないということです。姓名の文字種によって語順を変えているということです。つまり、言語設定が日本語であっても、姓名にアルファベットが入力されれば、それは英語表記であると見なし、英語の語順に変えているということです。

なかなかの気配りです。感心しました。

しかし、ここで話は終わりません。この仕様、人によっては歓迎できないかもしれません。その理由は二つあります。

第一に、英語においても日本語と同じ語順で「Ishibashi Hideto」と書きたい人もいます。中国人、例えば毛沢東は「Mao Zedong」、習近平は「Xi Jinping」ですからね。なぜ日本人は名前をひっくり返すのか、母国語に誇りはないのか、と考える人もいます。あるいは「Hideto ISHIBASHI」という表記も用いられています。大文字の方がファミリー・ネームと解釈され、明確になります。あるいは、中華系や韓国系の方に多いのですが、「Tony Ishibashi」のようにアングロサクソン風のファーストネームを使う方もいらっしゃいます。

従って、日本人の姓名を機械的に反転させて「Hideto Ishibashi」とすることが常に正しいとは言えないのです。名前の別言語表記は、ユーザーに自由に入力させるほうがベターです。もちろん、デザイン上の都合、エンジニアリング上の都合、色々あるのは承知していますが。

第二に、日本語以外の言語は英語だけではありません。「英語は世界中で通じる共通語」と考える人もいるかもしれませんが、それは世界の一部の地域でしか通用しない、いささか傲慢な考え方です。母国語(あるいは現国籍の標準語)の本名以外に、2つ以上の名前を使い分ける必要がある多言語話者もいます。

ですから、名前の別言語表記は、必要なだけ登録できることが望ましいのです。その上で、各ユーザーの言語の優先順位設定に従って、様々な場所で適切に表示してくれればいいのです。

例えば、私は日本語でGoogleを使っているので、YouTube等で「石橋秀仁」という名前が表示されます。他の誰かが言語設定を英語にしてYouTubeにアクセスすれば、「Hideto Ishibashi」と表示してほしいですね。もし私がロシア語が喋れたら、ロシア語表記の名前も登録しておきたいでしょうね。ロシア人との交流をより円滑にするために。

Googleアカウントの言語設定で、優先言語を日本語(日本)、他の言語に「English (United States)」を設定している。

というわけで、Googleの名前表示ロジックはすごい、けれど、いささか中途半端でもある、という話をしました。

今回、軽いデザイン批評のコラムを試しに書いてみましたが、いかがでしたか?(500円こたつ記事のような語尾)

キーワード:

  • 多言語化 / multilingualization (m17n)
  • 国際化 / internationalization (i18n)
  • 地域化 / localization (l10n)

これらはソフトウェア技術用語です。

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石橋秀仁 (Hideto Ishibashi)

ソフトウェア開発者/情報アーキテクト(IA)/アート・ファン https://hideishi.com