仕事してる気がするだけで一ミリも付加価値を生まない「仕事ごっこ」を撲滅するために

石橋秀仁 (Hideto Ishibashi)
5 min readJul 18, 2019

仕事ごっこ」という痛烈な皮肉を込めた絶妙なネーミングが気に入ったので買ってみたんですよ:

この本が日本中のマネジャーに届くといいですね。経済誌に書評が出たら結構読まれるんでは。あと「仕事ごっこ」という言葉自体が流行るといいと思います。

「仕事ごっこ」という言葉は恥の感情を喚起すると思う。人は恥には弱い。単にこの言葉を人に突きつけると侮辱であり反感を買うだけなんだけど、それとなくこの言葉に触れてしまう環境が作れるといい。「なんとなく最近あちこちで目にする言葉」になれるか。積極的に流行らせていきたいところです。

仕事ごっこ問題は、組織の下の人が自助努力で乗り越えるべきこともあるけど、マネジャーの意識改革も必要。社会全体のマクロな観点からは、マネジャーの意識改革が進まない会社から有能な人材が去ることも必要。そのためには転職しやすい社会であることも必要。結局は、日本のIT投資が生産性向上につながらない理由と同根。(細かい話は省略)

「仕事ごっこ」って、この言葉なら乗れる感・押せる感があって、ワンチャン世論が動くかもという期待が持てます。「保育園落ちた日本死ね!!!」のように、たった一つの言葉が大きな影響力を持つこともあるから。

山尾議員の質問に対し安倍総理総理が「匿名なので起こっていることを確認しようがない」などと発言したことから、ネット上では瞬く間に怒りの声が拡散、入所できる保育施設を探す「保活」中の母親や子育て経験者、保育士を志望する男性などが「だったら私たちが名前を名乗るよ」とその後わずか1週間で保育制度の充実を求める2万7682人の署名が集まり、この署名をその母親らと一緒に政府に手渡した。

例えばテレビのニュース番組の情報コーナーで、「みなさん、最近ネットで話題のこの言葉、ご存知ですか?」と言いつつ「仕事ごっこ」と書かれたフリップを出す、くらいになれば世の中変わると思う。目指せ、おはよう日本。日経新聞。

個人的には、クラウドサインでの電子契約を提案しても頑なに紙の契約書がいいと言ってくる取引先をどうにかしたいんだけど、そのための方法は書かれていなくて残念でしたw 誰かうまくいく方法を発明して俺に教えてくださいw

最後に少しだけ抽象的な話。

仕事ごっこを撲滅するには、単に情報システム(IT)を導入すればいいという話ではない。そんなに簡単な問題ではない。人々の概念や精神を変えていく必要もある。

道具だけ与えても、人々はそれを使おうとしない。人々の行動を変えるためには、人々の世界認識や欲望を操作する必要がある。

分かりやすい例を言えば、この20年くらいで格段にセクハラやパラハラなどのハラスメントに関する人々の認識は変わりましたね。そういった問題で炎上しないために社内で制度を作ったり、社外のコンサルタントを雇ったり。

あるいは2015年の電通社員過労自殺事件が大きなきっかけとなり、2018年に働き方改革法が成立しましたね。その法規制を遵守するために企業は勤怠管理システムを刷新したり新規導入する。それは単なる遵法(コンプライアンス)というだけでない。法の示す新たな社会規範を組織の精神にインストールすることでもあるわけです。

このことをデザイン理論家クリッペンドルフ流に言えば、「神話」や「ディスコース」に関わるデザインということになります。

エコロジー的な意味が合理性を超えたところにあると認めることにより、意味論的転回は神話を人工物のエコロジーの究極のドライバーであると認識する。それはデザイナーの心に位置するか、デザイナーの心を占めるはずである。なぜなら、

エコロジー的な文化の知恵に反するデザイン戦略は失敗するであろう。

[『意味論的転回−デザインの新しい基礎理論』(クラウス・クリッペンドルフ著、小林 昭世ら訳、エスアイビーアクセス、2009年)pp.235–236]

つまり、仕事ごっこを撲滅するためのデザインは、プロダクトをデザインするだけじゃダメで、「究極のドライバー」としての神話を書き換えることを目指さなければなりません。そして、だからこそ、ぼくもこんな文章を書いて「仕事ごっこ」のプロモーションに加担しているわけです。

実質のない儀式を要求する神を殺して、ビジネスの世界を脱魔術化するために。

そんなわけで、「仕事ごっこ」という概念を流行らせていきたいですね。

インフォメーション・アーキテクトからは以上です。

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石橋秀仁 (Hideto Ishibashi)

ソフトウェア開発者/情報アーキテクト(IA)/アート・ファン https://hideishi.com