コンテンツのプライバシー設定におけるラベリングの問題: YouTube、Google Drive、Facebook #デザイン批評

インターネットサービスのプライバシー設定は分かりにくい。設計者にとっても設計が難しい課題です。

「よーし、この宴会の動画を参加者だけに共有するぞー。『限定公開』っと。で、このリンクを送ればいいのね」

(数日後)

「ちょっと、あの宴会の動画がいろんな人に見られてるんだけど、どうなってんの!」

「えっ、『限定公開』にしたのに、なんで……?」

こんな事故が起こりやすいんですね。

まずは「公開」という言葉について考えてみることにしましょう。

インターネットサービスの専門用語はほとんど英語です。日本語の専門用語のほとんどが英語からの訳語です。私たちは日本語で設計論を交わしているようで、じつはほとんど英単語を使っている。「ボタン」「インターフェイス」などはカタカナですし、「登録」や「送信」というときに頭の片隅で ‘register’ や ‘submit’ を念頭に喋っている。

そう考えると、「公=パブリック」ですし、その意味は「誰でも」ということになります。

ところが「限定公開」という変な言葉があります。YouTubeが使っているし、定着しちゃったと思いますが。本来は「限定」してるなら「公開」ではないはずです。ほかにいい表現が見つからなかったのかもしれませんね。

「社内公開」という言葉もやはり変な言葉で、「公開」してないじゃんって思うわけですね。でも正確に言おうとすると長くなりそうです。「社内の誰でもアクセス可能」とか。

どうも、「正確に言おうとすると長くなるから」という妥協の産物として、本来は不適切なところで「公開」という言葉が使われているように思います。

この混乱は日本語特有なのかもしれません。

「公」は「オホヤケ」で、「ヤケ」とは家のこと。「公家」と書くと貴族の意味ですね。貴族が「おおやけ」を体現しているのだという、支配者が統治権力を自己正当化するような言葉だと思います。「公儀」とか「公方」もそう。いまでも「公共」という言葉で「行政機関」を指すことがあります。これは英語の「パブリック」や、その語源のラテン語の publicus が「平民」も含むような平等な概念であることとは全然違います。

いずれにせよ、そういう風に古代日本語の「おおやけ」という言葉は出来てきましたし、それが「公」という漢字の訳語にあてられたわけです。

だから、「他の人より強い権限を持っている」ということに「公」という字を使っても違和感が少ないことには、それなりに歴史的な根拠があります。

つまり「限定公開」「社内公開」などの意味が通るのは、日本語の歴史的経緯として「公」が「すべての民」だけでなく、それと反するような「一部の権利者」を意味することもあったからです。決して「公=パブリック」という直訳からは理解できないことです。

これは西洋的な「パブリック」の概念からすると、とんでもない倒錯で、前近代的な封建遺制だということになります。あるいは、ジョージ・オーウェルなら「社会主義的」だと批判するかもしれません:

全ての動物は平等である。
ただし一部の動物はより平等である。

ALL ANIMALS ARE EQUAL
BUT SOME ANIMALS ARE MORE EQUAL THAN OTHERS.

ジョージ・オーウェル『動物農場』 / Animal Farm by George Orwell

でも歴史的経緯として「パブリック」とは異なる「おおやけ」という概念があったわけです。それが私たちの日本語という言語ですから、その前提条件を好き嫌いは別にして受け入れて、その上で考えていくしかありません。

このように、「パブリック」と「公」の意味はズレているのに、「パブリック」の訳語に「公」という字をあてたので混乱しやすくなったのだということを理解したうえで、少しでも混乱を避けるように言葉を用いることが、まずは大事だと思います。

YouTubeには、動画のプライバシー設定に「限定公開」という選択肢があります。これを直訳すると ’limitedly/partially public’ とでもなるでしょうか。しかしこの英語表現では「公開する相手ユーザーが限られる」というよりも、「全体の一部分のみが公開される」ように感じられそうです。公開する先の人が限定されるのではなく、公開するモノが全部ではなく一部に限定されるような。

一部の人だけを指して「パブリック」と呼ぶような「限定パブリック」の概念は、英語の語感としてすんなり理解されないだろうと思います。単に「語義矛盾」と捉えられるのではないか。

さて、実際にはYouTube上で「限定公開」に相当する原語は ‘unlisted’ となっています。これはうまい表現で、そもそも ’list’ には「カタログに載せる」といった意味があります。「リスティング広告」の「リスト」でもあります。ですから ‘unlisted’ で「検索しても出てこないようにする」「リンクを知らないとアクセスできなくする」という機能をよく表現できています。

ところが、この ‘unlisted’ に相当する日本語はないと思います。日本語の「リスト」はもっと意味が狭いので、「アンリステッド」「非リスト」「リスト外」などとしてみても意味が通りませんね。だから無理やり「限定公開」というラベルをひねり出したんでしょうね。

プライバシー設定の選択肢が並んでいるような文脈では、ほかの選択肢との比較において「限定公開」でも意味が通ると思います。しかし単独で用いられたときにはどうか。例えば動画単独ページに「限定公開」と書いてあったとき、その動画が「限定公開」であるということは、一体どういうことなのか、正確に理解できるでしょうか。無理でしょう。事前に知っていなければ意味が分からない約束事です。

‘Unlisted’ を日本語にするなら、「リンクを知っているユーザーのみ」「リンクで共有」あたりでしょうか。「秘密のリンク」というのも見たことがあります。

「パブリック」と「プライベート」という対義語について考えていきましょう。通常は「公開」と「秘密」などと訳すでしょうか。「プライベート」にぴったり対応する日本語はないと思います。

もし公共施設に ‘PRIVATE’ と書かれた扉があれば、それは「関係者のみ」の意味ですね。「プライベート」は「自分だけ」を意味することもありますが、「関係者のみ」となる場合もあります。インターネットサービスのプライバシー設定を設計する立場から言えば、「意味が曖昧だ」とも言えます。

「公開」という言葉は、状態を表すなら ‘public’ ですし、動作なら ‘publish’ になります。 ‘publish’ といえば「出版」です。出版のアナロジーで言えば、 ‘unlisted’ に近い日本語は「同人出版」「地下出版」でしょう。 ‘unlisted’ はなにせユーザー認証しないのですから、人から人へと流通してしまう、つまり「ウラで流通する」ということなのです。 YouTubeの ‘Unlisted video’ は「同人動画」「地下動画」なのです(笑)

例えばFacebookでは、 ‘Private’ は使われていません。 ‘Only me’ (自分のみ) と ‘Specific friends’ (一部の友達) に分かれていて、明確です。誤解の余地がありません。

それに対して ‘private’ は曖昧で、「自分だけ」なのか「関係者も含む」のか、分かりません。例えば、「自分だけ」にしたつもりが、昔設定したまま忘れていた「関係者」には見える状態のままになっていた、という事故が起こりえます。

ただ、Facebookはログインユーザーを前提としているので「特定のユーザー」と言えますが、YouTubeで ‘unlisted’ は「特定のユーザー」を意味しません。 ‘unlisted’ ではログイン認証が求められず、リンクを知っていれば誰でもアクセスできます。投稿者が「特定のユーザー」のつもりでリンクを送っても、それが転送されて勝手に広まることを制御できないので、冒頭にあげたような事故が起こるのです。

その点では細かいのがGoogle Driveの選択肢です:

  • Public on the web / ウェブ上で一般公開
  • Anyone with the link / リンクを知っている全員
  • Specific people / 特定のユーザー
  • Private — Only you can access / 非公開 — 自分だけがアクセスできます

となっています。

この一番下の選択肢は、 ‘Private / 非公開’ を省いて “Only you can access / 自分だけがアクセスできます” とした方が、むしろ分かりやすくなるかもしれません。

また、「特定のユーザー」(specific people) だけでは分かりにくいので、「ログインが必要」(login required) と付け加えたほうが明確になるでしょう。もちろんこの並びの中では「リンクを知っている全員」と違うのだという文脈で理解できますが、(前述の動画単独ページの「限定公開」の例のように) 単独で見るとかなり分かりにくいです。

案の例:

  • Public on the web / ウェブ上で一般公開
  • Anyone with the link / リンクを知っている全員
  • Specific users (login required) / 特定のユーザー (ログインが必要)
  • Only me / 自分だけ

同様にYouTubeについても考えてみたいと思います。

まずYouTubeの動画のプライバシー設定は現状では次のようになっています:

  • Public / 公開
  • Unlisted / 限定公開
  • Private / 非公開

何度も繰り返しましたが、 ‘unlisted’ の訳語が「限定公開」ではミスリーディングですね。事故が起こるよりマシなので、ちゃんと説明したほうがいい。そして ‘private’ も2つに分けたほうが明確です:

  • Public / 公開
  • Unlisted / リンクを知っている全員
  • Specific users / 特定のユーザー (ログインが必要)
  • Only me / 自分だけ

この論考で3つの具体的なインターネットサービスを例にとってデザイン批評してきました。もちろんそれらの「中の人」(設計者)は、ここで検討の前提とした以上に様々な多くの制約にもとづいて検討した結果として、現状それらを採用しているのだろうという性善説に立った上で、それらをリスペクトしつつも、ここではある程度限定したコンテキストで議論せざるをえないということも踏まえつつ、いちおうの結論は出たということにします。

本稿の目的はYouTube、Google Drive、Facebookそれぞれにとって最適なラベリングを提案することではなく、それらの分析を通じて、より一般的な設計上の知見を得ることでした。それはある程度達成されたものと思います。

あ、この文章で、あたかもFacebookがいちばん分かりやすくていいみたいに誤解する人もいるかもしれないけど、全くそんなことありませんからね。むしろ一番複雑で分かりにくい。実際Facebook使ってればわかると思いますが。

「次を除く友達」「カスタム」「知り合い」「友達の友達」……

とほほ……

まあなんにせよ、インフォメーション・アーキテクトからは以上です。

ソフトウェア開発者/情報アーキテクト(IA)/アート・ファン https://hideishi.com

ソフトウェア開発者/情報アーキテクト(IA)/アート・ファン https://hideishi.com